ハイパワー赤外線LDを光らせる

 波長 808nm の赤外線レーザーは、YAGレーザー等の励起用として良く使われる。極めて出力の大きいものが作られているのが特徴だ。
 赤外線ではあるが肉眼にも僅かな感度があり、うっすらと赤い光を確認できる。しかし、見た目の明るさからは想像できない強烈な光線が出ているため、取り扱いには非常な注意が必要だ。黒いプラスチックは集光していないLDに近づけただけで煙を上げて溶ける。目に入ったらひとたまりもなく失明する。最も危険とされるクラス4に分類されている。

 今回使用するのは、SDL−2470−A という光出力3ワットの品である。家庭用レーザー脱毛機の2〜3倍だ。
 データシートはこちら

 LDにはいろいろなパッケージ形状がある。SDL−2470−ACブロックと呼ばれるタイプだ。

 通常とは桁違いの大出力とは言え、光らせ方は基本的に定電流駆動に変わりはない。
 だが、単純な定電流回路はハイパワーLDの駆動に適していない。LM317を使ったポピュラーな手法や、定電流ダイオードを使った簡便な方法は、いずれも定電流回路自体に4〜5Vの電位差を必要とする。。電位差が不足すると、狙った定電流より少ない電流しか流れない。
 (発熱)=(電位差)×(電流)なので、大きな電位差が必要な回路は大電流で発熱が多くなる。無駄が多くなる。
 SDL−2470は定格4アンペアなので、20ワット近い電力が全くの無駄に捨てられる。

 

安定化電源+電流制限抵抗

 となれば、安定化電源+電流制限抵抗がシンプル。この場合もかなりの発熱があるが、4アンペア程度なら力技で何とか動かせる。
 スペックシートを元に、作戦を練る。

定格 最大
電流 4A 4.8A
内部抵抗 0.12Ω 0.25Ω
電圧 1.98V 2.7V

 スペックシートにはLD自体に必要な電圧が書かれていない。注釈にさりげなく、1.5V+電流×内部抵抗と書かれている。計算すると、定格ではほぼ2Vだが、最大付近では2.7Vにまで増えることが分かる。
 しかし、実際にテストしたところ電流が4A→4.8Aへと増えるに従って内部抵抗も0.12Ω→0.25Ωへと上昇するのではないと思われる。スペックシートのフォーマットが曖昧で、内部抵抗はあくまで0.12Ωのままで、電流値などとは直接連動せず条件次第でもしかすると0.25Ωまでは増えるかもしれない・・・という意味っぽい。

 最初は、使い慣れて性能バッチリと分かっている TA48M03F を10個位並べて使うことを考えた。ニッケル水素3本で3Vが作れる。だが、三端子レギュレーターはコンデンサーを各2個接続しないと出力が安定せず、10個も並べて配線するのは非常に面倒なのだ。やってられない!とドロップ電圧が1.2V以上と大きいが7A容量の製品1つで3.3Vを作ることにした。この場合、ニッケル水素電池が4本ないと電圧が足りないが、例えばLM317で定電流回路を作ると4本でも電圧が足りないからメリットはある。

 電流制限抵抗は0.82Ωを2本に1Ω1本を並列にした合成0.29Ωを使い、バッチリ4A強を安定供給出来た(抵抗両端の電位差が1.2Vとなった)。
 ところが、1〜2分で殆ど電流が流れなくなった。
 調べると、ニッケル水素電池4本合わせてほぼ5Vの電源電圧が、スイッチ入れたとたん3.6V前後に低下していた!
 電池の接点にナノカーボンを添付しても全く事態は変わらない。どうやら充電完了直後の特に電圧が高い初期だけは充分な電圧を供給出来ているが、その後の安定期に入ったらもう4A供給に耐えられず電圧降下が派手に起きているようだ。ニッケル水素電池の内部抵抗は、ここまで高くないはずだぞ?

 あれこれ調べるがニッケル水素電池の内部抵抗について具体的に書かれた資料が見つからない。
 まさか4A程度でここまで音を上げるとは思わなかった。容量2500mAh の最新電池なのに!
 もしこの電圧降下が事実としても、共立モジュール程度であれば電流も10分の1なので電圧降下は3本でせいぜい0.1Vである。全く問題は表面化しない。4A供給とはバッテリーにとってそこまで大変なのか?
 デジカメの外部電源もいろいろ売られているが、非常に高価なものを除けばいずれも供給出来るのは2Aまでである。4Aなんて保証してるものは殆ど無い。

 これでは電池を6本使わねば安心出来ず、余りに無駄が大きい。

 

乾電池直結駆動

 ニッケル水素電池を2本だけ使い、電流制限抵抗を入れるだけでLD直結で発振させることも可能だ。
 しかし実験の結果、電池の電圧変化に伴う電流変化が予想外に大きいと判明。
 充電完了直後の電池で4アンペア強流れるように電流制限抵抗を設定すると、ある程度電池を使って電圧が安定期に入った場合に3アンペア強しか流れなくなる。これだと、定格2ワットで初期の電圧高い時は3ワット出ます、という状態になってしまう。

 結局、電源の無駄を我慢するか、出力の無駄を我慢するか、の選択になる。

 

立ち上がり対策

 そればかりではない。定電圧駆動で一番問題なのが、電源投入直後に大電流が流れる現象である。どんなに強力なヒートシンクを装着しても、LDの温度は電源を入れた直後が一番低いことに変わりなく、低温=内部抵抗小ということで最も大電流が流れる。その瞬間に絶対定格を超えないよう調整すると、定格よりもかなり低い状態でLDを駆動するしかなくなる。
 LDは電源投入直後に流れる電流を少なくしておき、発熱してLDの温度が上がるとともに少しずつ電流を増やす駆動方法が推奨されている。発熱の桁違いなワット級LDでは、手抜きが出来ない。
 シロウトに毛が生えたような個人でも手軽にそういう制御を行うにはどうすれば良いだろうか?

 大容量の電気二重槽コンデンサーをLDと並列に接続するのが最強の手法だと思う。複雑な制御を行えば信頼性は高められるが、ここでは誰でも手軽に工作出来ることを最優先している。Simple is Best !

 コンデンサーは充電が進行するに連れて少しずつ電圧が上昇する。今回は容量2ファラッド・耐圧2.3V・内部抵抗0.05Ω以下の製品を2個直列2個並列し、容量4ファラッド・内部抵抗0.05Ω以下とした。

 LDの内部抵抗が0.12Ωなのに対しコンデンサーは0.05Ω以下なので、電源ONにした直後は電流の多くがコンデンサーに流れ込む。
 これにより、電源投入直後にLDに大電流が流れるのを防ぐ。

 LDよりもコンデンサーの内部抵抗が遥かに小さくないと効果を発揮しない。
 電気二重槽コンデンサーには内部抵抗0.2Ω以上のものも多く、少し古いものは平気で1Ωなんてこともあるから要注意である。内部抵抗を尋ねて答えられない店では買わない方が無難。高抵抗のものを使っても無意味。

 コンデンサーの電圧が少しずつ上昇し、LDの電圧(1.5V+内部抵抗×電流)を上回ると、コンデンサーは直流電流を通さなくなる。
 こうなるとLDに普通に通電される。

 LDに更に大きな電流が流れるとLDの電圧も上昇し、それによってコンデンサーの方が低電圧になると、上図のように再度コンデンサーに電流が流れ込みLDへの電流がカットされる。

 こうして、コンデンサーの電圧によってLDに流れる電流が制限される。
 大容量コンデンサーの電圧は上昇に時間が掛かるので、LD立ち上がりの電流もマイルドに上昇する。実際には時間が掛かると言っても、LDは0.2秒程度で充分明るくなるように見え、実用上はバッチリである。

 その後、突入電流は余り心配しなくて良いことが判明。LDドライバーの中にも突入電流対策していないものがあるが、それでもLDはちゃんと動いている。もしかすると寿命に影響するかもしれないが、趣味としての実用上は神経質にならなくても良さそうだ。
 共立モジュールの直接ドライブやレーザー銃製作でも対策は省略している。

 

定電流駆動回路

 電源の無駄も出力の無駄も避けようとすれば、電源回路を改善する必要がある。レーザーポインターの制御基板は3V程度で動作している。なぜそんなことが可能なのか?
 LDはある電圧を超えると流れる電流が急上昇し壊れてしまう。しかし、上昇率は無限大ではない。内部抵抗があるからだ。SDL−2470なら0.12Ωだから、電圧が0.1Vアップしても電流は1アンペア未満の上昇である。つまり、供給電圧を微調整すれば、LDに流れる電流も制御は可能なのである。

 LDに流れる電流をモニターし、それによって電圧を微調整する。こうすれば比較的低い電源電圧でも定電流駆動が可能となる。
 電圧=抵抗×電流であるから、LDと直列された抵抗の両端の電位差を計測すれば電流が分かる。

 LDと電気二重槽コンデンサーを並列接続し、それを電流検出用の0.1Ωに直列する。
 0.4Vの基準電圧を用意し、0.1Ωの+側の電圧と比較する。4A以上流れると電圧が0.4Vを上回る。そうなるとスイッチをOFFにする。
 抵抗の+側が基準電圧より低くなればスイッチをONにする。

 電流が制御されるため電気二重槽コンデンサーの充電速度も限定され、立ち上がり対策の場合よりも小さな容量のコンデンサーでOK。
 電流検出用に0.4Vほど必要だが、電源電圧は最低2.6V程度あれば動作可能。これなら単3ニッケル水素が派手に電圧降下を起こしても対応出来る。

 基準電圧は三端子レギュレーターで一定電圧を作った後で分圧抵抗と考えたが、実験すると不安定になることがあった。そこで、基準電圧ダイオードを使うことにした。ダイオードはLDもそうであるように、それ自体が電位差を必要とする。基準電圧ダイオードはこの電位差が安定してほぼ一定になる製品で、ここでは1.25Vのものに分圧抵抗を使って0.4Vを作っている。微調整出来るように分圧抵抗の一方はボリュームとする。
 ダイオードとVCCは電流制限抵抗1KΩを入れて接続。これは通常のダイオードやLEDの場合と同様だ。

 比較機にはもちろんOPアンプ、そしてスイッチにはパワーMOSFETを使う。
 OPアンプはGNDからVCCまで出力が振れるのでLMC662あたりが使い易い。しかし電源に5V以上を要する。スイッチ部分の−側は10A流れても1V程度の電位なので、LMC662ならばゲート電位4V以上が可能で、P型ではなく高性能のN型FETが使える。

 OPアンプ駆動には数十ミリアンペアでお釣りが来るので、TL499などで昇圧回路を作って5V以上を用意すれば良い。LD直列やLDアレイで電圧が高く、ラジコン用7.2Vバッテリー等で駆動する場合は昇圧回路も不要となる。

 LDと並列にコンデンサーが入っていると、立ち上がり対策のみならずノイズからLDを保護する役に立つ。しかし、数十ワットのLDアレイになると必要な性能のコンデンサーを用意するのが大変となる。また、低内部抵抗の電気二重槽コンデンサーが入手出来ないかもしれない。
 そのような場合は、基準電圧部分にコンデンサーを入れて、電源ON後に基準電圧が徐々に上昇するようにするのが手軽。
 抵抗が5KΩ程度であれば、100マイクロファラッド程度のコンデンサーで大丈夫。

 しかし、この回路を見れば「かなり酷いリップルが出るのではないか?」と疑問が出るかもしれない。試作したところ使い物にならないほどリップルが大きかった。しかも、スイッチング用のパワーMOSFETもN型とは思えない激しい発熱。スイッチングレギュレータのように高効率で発熱が少ないのでは?と期待したが、思い切り期待外れ。これならスイッチングにP型を使っても変わらないし、その方が素直な回路になる。

 

定電流駆動回路(改良版)

 紆余曲折を経て完成したのが、この回路。見ての通り余りにも当たり前だが、ここに落ち着くまでには「P型ではなくN型のパワーMOSFET使えた方が良くないか?」などの素朴な疑問を幾つも実験の末に捨てて来ている。
 この回路だけ見ると何でもないが、これ以外の様々な手段を試した上でのベストとして決定したものだ。

 定格4アンペアの前提で作成されている。
 突入電流抑制コンデンサーが付いているため、レーザースキャナーなど高速変調したい用途には向かない。

 試作中に感じたのは、三端子レギュレータがアテにならないこと。外付けコンデンサーが必要なのも鬱っとうしいが、大電流を流すとドロップが増大し、思わぬ高電圧が必要になる。逆に、バッテリー駆動では負荷増大時に出力電圧が下がり、電流が確保できないトラブルも発生 (←実は悪いのはバッテリー)
 製作難易度、信頼性、性能のバランスで、アマチュアのハンドメイドには定電流制御が最も向いてるように思える。
 だが、この定電流回路にも問題はある。ラジコン用7.2Vバッテリー等を接続した場合に、スイッチングレギュレータを兼ねて効率良く電力を使えるように思える。ところが、実際に製作すると全く電流が節約されない!
 最終的に4アンペア取り出そうとすると、7.2Vバッテリーからも4アンペア流れるのだ(理解不能)。そして、パワーMOSFETが三端子レギュレータであるかのように多量の発熱をする。効率を上げようとすれば、あるいは更に大電流を取り出したい場合など、DC/DCコンバータが必要なようだ。

 当初計画通り単3ニッケル水素電池使うと、バッテリー能力の不足からトラブル多発し遂に断念した。3アンペアまでなら大丈夫との以前の結論も怪しい。

 

DC/DCコンバータ+電流制限抵抗 結論

 とにかくどいつもこいつも欠点を抱えていて、LD駆動は大変だ。これまで散々やって来て、市販品のレーザーに馬鹿でかい電源ユニットが付いているのももっともだと思うようになった。LDドライブは想像を遙かに上回る大変さなのだ。
 どうせDCコンバータが必要なら、それを定電圧電源として使用し、電流制限抵抗だけで使えないか?
 こういう用途に使えるDCコンバータが見つからなかったのだが、いい製品を発見した。存在は以前から知っていたが、個人に売ってくれるとは思えないので放置していた(使用機会がなかったことも大きい)。しかし、ダメモトで問い合わせたら個人でもOK(銀行振込)で値段も@3500円と妥当だった。

 もし電流制限抵抗だけでこいつがLDドライブに使えればまさに革命。超ハイパワーLDのバッテリー駆動が非常に簡単になる。
 サーバー用なだけに出力品質が高そうで期待が持てる。正直LDドライバーに必要な高品質の電源を自作するのは骨が折れるし、もし何かミスしていると高価なLDが即死する。市販品で流用可能なものがあれば、流用するに越したことはない。
 ラジコン搭載のPICやサーボの5V系電源にも使えるだろう (こっちが本来の用途?)

FDKのサーバー用DCコンバーター(超高性能)
 入力 6〜14V (ラジコンバッテリー最適)
 出力 1.5〜5V (任意設定可能)
 効率95%、最大20アンペア!
 非常に小型

 結果は大成功。単3ニッケル水素電池3〜4本で使いたい場合は電圧不足で駄目だが、ラジコンバッテリーで動かす場合は問題無し。4アンペア楽勝。
 コンデンサーを4つずつ使い配線もしっかりしたものでは、実際に18アンペア以上流しても大丈夫なことが確認出来ている。リップルも出ない。超高出力LDアレイも2つ3つ並列すればバッテリー駆動出来てしまう。

 単3ニッケル水素で4アンペアはどう頑張っても極端にランタイムが短く、使い物にならないとの最終結論が出ている。単3使いたいならLDは光出力1.2ワットまでだ。
 もっと出力の大きなLDはラジコンバッテリー以外に現実的な選択肢が無く、それならFDKの出番。

 

強力なヒートシンク

 ワット級になると、放熱は極めて厄介になる。レーザーポインターとして使う程度の出力だと、少々対処が甘くても出力が不十分な程度で済むが、超高出力品は世界が違う。ミリワット単位の世界の常識は通用しない。
 日本で市販されているLDは1〜5ミリワットである。3ワットのLDは、その1000倍の出力である。それこそ1000倍真剣に発熱対策しないといけない。

 どんな発熱体でもそうだが、発熱対策しても点灯直後は温度が上昇し、暫くすると安定する。超高出力LDは上昇速度も大きい。Cブロックタイプは3ワットのLDでも0.5ワットのLDでもほぼ同じ筐体サイズである。つまり、同じように扱えば3ワットのLDは0.5ワットの6倍の速さで温度が上昇してしまう。先のデータシートはLD筐体温度が25度の場合である。
 発熱が桁違いのワット級は大変なのだ。LDの温度変化を少しでも抑えるため、高性能のヒートシンクを用意する。データシートでも推奨ヒートシンクについて0.5℃/Wなどと書いてある。
 パソコンCPU用のヒートシンクでも0.3℃/W以下は高性能品であり、0.25℃/Wなら超高性能を名乗って構わないほどだ。その半分の性能が推奨されているのである! 

 ハンドヘルドサイズにそんなヒートシンクを乗せるとなれば、徹底して丁寧にしっかりしたものを作らねばならない。手抜きすれば、既存のレーザーポインター改造してる方がマシってことになりかねない。
 ワット級LDに興味があるなら、とにかくすべてを真剣に作業することだ。このページの製作記事が偏執的と少しでも思うのであれば、手を出さない方がいい。

 LDの廃熱は7〜8Wと想定される。
 温度上昇は最悪20度、可能ならば10度以内に収めねばならない。LD本体の温度は30度以下が望ましいとされており、最大でも50度以下でないといけないからだ。
 そこで、パソコンのCPUクーラーを改造し、そこそこの大きさでかなり性能の高いヒートシンクを作成する。
>>記事

 LD本体が載るヘッド部分。
 ヒートシンク&ヘッドのでかさに比べてLD本体が極めて小さい。しかし誤魔化されてはいけない。大きさは5ミリワットのLDと大差ないが、こいつは3000ミリワットなのだ!
>>記事

 レーザー銃として使いたければ可視光線に変換する必要があるが、燃やして遊ぶ (^_^;) だけなら適切なコリメートレンズを着けて集光してやることで熱線銃が一丁上がり!である★

 

更なる高出力の世界へ

 バッテリーとしてラジコン用を使用すれば、定電圧出力と電流制限抵抗を組み合わせる手法で出力が数十ワットのレーザーダイオードでも光らせることができる。しかしそれを上回り更なる出力を追求すると、ロスが馬鹿にならなくなる。
 光出力180ワットという超ド級のレーザーダイオードアレイをドライブするのに、DC/DCコンバーターをPICで制御した定電流電源の製作に成功しました。それを組み込んだグリーンレーザー銃のケリが付いたら、公開します。裏ブログでは既に記事を書いています。

 

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