赤外線パルスYAG SSY−1

 グリーンレーザーを自作しようと思ったら、まず最初に何をするだろう?
 大抵は共立モジュールを買うのではなかろうか?自作の入り口として、また手軽で安価な組み込み用として、非常に便利である。日本ではレーザーマニアの多くが購入済だろう。
 では、パルスYAGレーザーを自作しようと思ったら?
 YAG棒やフラッシュランプやレーザーミラーを掻き集め更には固定するための筐体を製作しなくても実は既に、共立モジュールに相当する品がある。それがSSY−1だ。
 レーザーモジュールとして共立グリーンが日本でポピュラーなのと同じ位、SSY−1はアメリカでポピュラーである。価格も共立モジュールと比較すれば高いが、それほど高くはない。黒共立より安いことさえある!

 元々は米軍がレンジファインダーとしてM1戦車に搭載していたものである。
 ところが、兵士の目にダメージを与える目的のレーザーが禁止され、測距目的ではあるが肉眼に極めて有害なYAGレーザーを使用したSSY−1もお役ご免となった。代わりに、波長 1500 nm 近辺の比較的安全性の高いレーザーに置き換えられている。
 こうして大量のSSY−1が余り、民間に放出されたのである。そのため、アメリカでは入手が容易かつレーザー発振器として破格に安い。素のYAG棒だけ買う方が高いくらいだ。

 しかも、コストダウンのために極限までいや極限さえ超えて手抜きされている共立モジュールと異なり、そもそも軍で使用されていた品である。ミリタリークオリティーなのだ。
 小さくて安価なことと海外ウェブに溢れている写真から、オモチャっぽい印象も受ける (そもそも奴ら写真撮影下手過ぎ!)。しかし実物を手に取れば、品質の高さがひしひしと伝わって来る。
 ただし米軍払い下げという性格上、共立モジュールのように決まったショップに行けば決まった価格で買える、というものではない。だから、アメリカではポピュラーでも日本では流行っていないのだろう。
 売り主は「プリンターの部品」だと申告してアメリカの輸出税関をパスしたようだ(汗)

 ちなみに、こっちから海外送金するときも送金目的を申告せねばならない。自分の場合、グリーン系は「天体観測用具の購入」、パルスYAG系は「金属加工用具の購入」ということにしている。これまで税関で問題になったケースは皆無。

 単三乾電池2本分ほどしかない地味な品であり、知らなければYAGレーザーとは分からないだろう。
 共立モジュールが電池を接続するだけでグリーンレーザーを発するように、SSY−1はフラッシュ発光回路を接続するだけでパルスYAGレーザーを発する。フラッシュランプの代わりにSSY−1を取り付ける「だけ」でいい。黒赤が内蔵キセノンフラッシュ管に直結しており、白がトリガー端子。

 共振器ミラーは2本のネジで固定されている。調整機構はない。戦闘中にYAGレーザーの光軸調整など論外!だからメンテナンスフリーになっている(喜)。

 ミラーの輝きは明らかに誘電多層膜コーティングだ。サイドの矢印マークを見ると、どう考えてもこれが出力ミラーだ。ところが、どうやら全反射リアミラーらしい。
 反対側も全く同じ構造になっているが、ミラーは赤っぽく見える。

 YAGの誘電多層膜コーティングは可視光をある程度透過する。そのため、両側のミラーと中央のYAG棒を通して、向こうの景色を眺められる。景色は歪まないので、両側とも平面ミラーのようだ。

 ネジ4本でフラッシュ&YAG棒ユニットが分離出来る。
 フレームは小さいが頑丈で、最小限の空間で外部ミラー型共振器を構成している。全長105ミリ。
 半インチの誘電多層膜外部ミラーを搭載しているというだけでも、これが安さをウリにした装置ではないことが分かる。

 共振器の楕円ミラーは密封されていて、分離出来ない。簡単に出来ても困るが・・・

 HRリアミラー側には、パッシブQスイッチまでもがビルトインされている。ちょっと考えれば分かることだが、Qスイッチは出力ミラー側ではなく全反射ミラー側に入れた方が効果的である。
 レンジファインダーにとって、パルス幅はモノサシの目盛りの太さに相当する。また、標的を出来るだけ明るく照らしたい。従って、パルス幅は短ければ短いほど良く、ピークパワーは大きいほど良い。この目的に添って最適化されたQスイッチである。
 適切なフラッシュ駆動回路と組み合わせると、パルス幅が僅か4ナノ秒で発振するらしい。ピークパワーは20メガワット以上!

 共立モジュールに毛が生えたような外見だけど、これは「元」とは言え正真正銘の兵器です(汗)

 しかしエネルギーは0.1ジュールがせいぜいで、使い捨てカメラの基板を流用したような最適とは言い難いフラッシュ回路では数十ミリジュールがいいところだと思われる。
 実験を進める過程で、Qスイッチを除去してジュールを増やした方が面白いと判断されるかもしれない。

 また、このQスイッチはレンジファインダー専用に極端な仕様で製作されているせいか、発振させるには最低7.5ジュールのフラッシュエネルギーが必要とされる一方、安全に使えるのは20ジュール投入あたりまで。欲張って大量のジュールを投入するとフラッシュランプの遙か前にQスイッチが破壊されるとの情報がある。

 出力ミラー側。
 軽く固定されたネジを外せば、YAG棒を取り外せるようだ。太さ5ミリで長さ6センチ。
 一方白いアダプターは、フラッシュランプを取り外す方法も想像できる形状である。絶縁されているが固定されておらず、自由にくるくる回る。

 小型軽量ピークパワー大だがエネルギーの小さいSSY−1の面白い用途として、種火を考えている。パルスレーザーのトレンドは、高品質低出力の種火パルスを増幅器に通す手法である。
 レーザー砲では共振しないと散々叫んでいるが、YAGレーザーを発振させるのに共振器やミラーは必ずしも必要ではない。YAG棒とキセノンフラッシュだけ用意し、ミラー無しで光らせる。充分な反転分布が生じたところで、SSY−1からパルスYAGレーザーを撃ち込む。

 すると、それが種火となって誘導放出が生じ、パワーアップしたパルスが出てくるはずだ。しかし、溜まったエネルギーが一掃されるような単純な話ではないようで、現実には様々な工夫が試されている。実際にやってみないと効果は分からない。うまく行くなら、思いっきりジュールをぶち込んだYAG棒を穏当出力のSSY−1で照射し、超短パルスでありながらジュール数もそれなりにあるパルスが得られるだろう。
 逆に充分な増幅率が得られないなら、いっそQスイッチを無くしてSSY−1に大ジュールを投入、コンパクトで強力なパルスレーザー(でもピークパワーはキロワット級に留まる)とした方が楽しめそうだ。

 

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