多段式コイルガン

 多段式にすると、話が更に複雑化する。だが、工夫の余地も激増する。趣味として考えると、面白さも激増する。たった2段でも世界がまるで変わる。以下は、最小構成の多段式である2段式コイルガンの設計。1/35ストームタイガー搭載を考えた超小型である。

 

超小型2段式コイルガン

 1段コイルは0.35ミリの細エナメル線を約5メートル使う。100巻き前後になるはずだ。
 2段コイルは0.5ミリを約10メートル。こっちは200巻き前後だろう。

 簡単な巻き取り器を製作し、高密度に巻き固めて性能向上と空間節約を狙う。1段目は長さ4ミリだがピアノ線用のギャップが必要で実質3.5ミリ。2段目は長さ13ミリ。
 ベストなコイル長はもっと長いと思われるが、ストームタイガーに搭載可能なコイルは17ミリあたりが限界である。ベストより恐らく短いコイルで性能を出す工夫が必要となる。

 この1段目みたいに極端に短いコイルになると、吸引力のピークがコイル外に飛び出してしまう。コイル外では鉄心効果が働かず性能を活かせない。
 そこで、発射直後から2つのコイルに同時に通電し、全体を1つのコイルとして働かせる。この時点では単段式コイルガンと変わらない。ただし直流抵抗は半減している。

 続いて、1段目のIGBTをOFFにする。まだ初期でありコンデンサーの電圧が高いため、1段目のコイル電流に猛ブレーキが掛かる。

 1段目のコイルから回収された電力は、そのまま2段目に投入される。回生型回路の面目躍如!
 単段式では回生型回路と言ってもエネルギー的に有利となるのは2発目以降だった。しかし、コンデンサー共有2段式の場合、1段目の回生電流をその場で2段目に使えるため、1発目の射撃から有利となる。

 2段目のコイル電流はどんどん大きくなる。

 1段目のコイル電流は回収し尽くされ、2段目だけがパチンコ玉を吸引する。

 1段目と同時に2段目も最初から電流を流したもう1つの意味がここにある。
 単段式だと吸引力が最大となるコイル端にパチンコ玉が存在する時に、コイル電流は小さい。だが、今の場合、充分にコイル電流が大きくなった状態でパチンコ玉がコイル端を通過する。

 コイル電流は急に減らせないし急に増やせない。早期に電流を流し始めることにより、2段目コイルが大電流を抱えた状態でパチンコ玉を待ち受ける。短いコイルで猛加速を与えるための工夫だ。

 後は適切なタイミングで2段目コイルに回生ブレーキを掛け、加速終了!

 たった2段であっても工夫の余地が爆発的に広がるのが分かる。
 これは、2つのコイルの合成磁場を計算したものだ。1段目の2段目の電流を 0.5:0.5 → 0.25:0.75 → 0:1 と変化させた3つのグラフを重ねてある。緑で示される吸引力のピークが滑らかに移動している。ただしこれはプロジェクタイル前後長ゼロのグラフだ。

 330V400μFのコンデンサーを使用してパチンコ玉を射出する場合、コイルピストルのように単純なフライホイール型では約0.5ジュールのパワーとなった。これに対し、回生型でコイル電流に急ブレーキを掛けると、約0.7ジュールにパワーアップされた。更に2段式にすると、約0.9ジュールまで出るようになった。
 その後、1段目コイルをもっと長くするとパワーが上がると判明。限度はあるが1段目が長い方が吸引力のピークを移動出来る距離が長くなり、初速を上げ易いと思われる。コイルを改良することで1ジュール以上が出せる。単純なフライホイール型の2倍以上である。

 回生型回路はコイル電流を制御する能力が高いため、多段式にすると最強の潜在力を持つ。しかし構造が複雑で製造が面倒。その回生型回路を比較的単純な構造で多段式にする方法がある。

 

回生型回路の単純化

 回生型回路はローサイドとハイサイドのIGBTが常に同時にONにしたりOFFにする。それなのになぜ、わざわざ2つのスイッチング素子が必要なのか?

 最初にコイル電流を流し始める時は良いのだ。
 別にスイッチング素子が1つであろうと2つであろうと。

 問題はOFF時にある。仮に、ハイサイドのIGBTが無ければどうなるか?
 回生したいコイル電流がフライホイールを作ってしまう。ハイサイドのIGBTはOFFになることでフライホイールが出来るのを防止し、コイル電流がコンデンサーに行くしかないようにするのだ。

 では、コイル電流の回生先として別にコンデンサーを設けるとどうなるか?
 この場合はハイサイドにIGBTが無くてもフライホイールが形成されず、すんなりC2に回収される。

 ローサイドのIGBTがONの時は、C1の電圧がC2を上回らない限り、D1が導通することはない。

 コイルに電流を与えるコンデンサーC1と、電流を回収するコンデンサーC2。両者を分ければハイサイドIGBTは不用となり、共通にすれば必要となる。

 従って、2段式コイルガンにおいてコンデンサーを2つ用意し、互いに電源と回収先を交換すればハイサイドのスイッチング素子は不用となる。

 しかし、1段目と2段目のコイルは特性が異なる。コイルガンの1段目と2段目の条件が同じということは、あり得ない。それなのにコンデンサーを分離し別々に回収を行えば、トータルの効率が低下するのは避けられない。
 ハイサイドの素子を廃止することが目的化してしまい、本来の目的が見失われている。

 

順送り回生型・多段式コイルガン

 では、例えば4段式コイルガンで、こんな回路はどうだろう?
 両端はハイサイド素子も備えた普通の回生型回路。真ん中の2つは回収先のコンデンサーを1つ銃口寄りとし、ハイサイド素子を廃止する。

 射撃開始すると、まずコイルL1とL2に同時通電する。1/35ストームタイガーの主砲コイルと同じ制御でスタートだ。

 続いて、1段目のIGBTをOFFにする。コイルL1の電流はC1に回収され、その場でコイルL2の足しにされる。コイルL3に通電開始し、C2の電圧を定格より下げておく。これにより、C2に回生電流を受け入れられる。

 ここで、2段目のIGBTをOFFにする。コイルL2の電流はC2に回収され、その場でコイルL3の足しにされる。コイルL4に通電開始し、C3の電圧を定格より下げておく。これにより、C3に回生電流を受け入れられる。

 コイルガンにおいては、砲尾側から銃口側へと順番に通電すると決まっている。よって、回生先を銃口寄りの隣接コンデンサーとすれば、無駄は生じない。そして、電源と回収先が異なるためハイサイドの素子は不用となる。
 どんなに段数が増えてもハイサイドの素子が必要なのは両端の2カ所だけであり、それ以外は不用となる。30段のコイルガンなら、28段はローサイド素子だけで良い。そして、ローサイド素子はトランジスターを入れてPIC直結というお手軽なドライブが可能だ。

 もちろんハイサイドが無いと、コイルの初期通電でスイッチングが遅いという問題が生じる。スイッチングロスにより IGBT が破壊されるので、dv/dt が許す限り高速にスイッチングを行い、それでも I2t で破壊されるようなら並列数を増やしてシノぐ。

 センサーでプロジェクタイルの位置を検出しないシンクロトロン型であれば、遅延は問題とならない。

 その一方で、メリットは数多い。
 全段回生型という最高効率を出せるコイルガンが、少ないパーツ点数で製作出来る。皮肉なことに、「両端」しかない1/35ストームタイガーのような2段式が一番損をする (^_^;)
 L1からL3までのコイル電流はすべて再利用され、最後のL4だけ次弾用に余る。段数が増えるほど再利用率が向上する。後は合成磁場が最高の位置でプロジェクタイルを吸引するよう適切なタイミングでスイッチングを行うだけだ。

 最後の問題点は、整流用ダイオードの一方の順回復を待つために入れている20μ秒のフライホイール状態を作れないこと。しかし、この20μ秒は念のために入れているに過ぎず、無ければ致命的というものではない。

 多段式はコイルガンの性能を大きく改善する。たった2段でも相当なパワーアップが可能だ。その理由は、合成磁場を作ることで磁場パターンを変化させられること。
 しかし2段ではパターンの移動可能距離が短く、まだ本格的に多段式のメリットを受けていないはず。8段位になれば相当に効果を実感出来るはずだ。

 その一方で、段数が増えると弾速もアップするため、同時通電しているコイルの数が増える。それでも高効率をキープ出来るかどうか分からない。もし効率が落ちなければ、スリングライフルより遙かに強力なコイルガンも作れるだろう。
 4段式では、皮算用通りに高効率をキープ出来ることがコイルガン戦車ストームタイガーにより実証された。

順送り回生型コイルガンは特許申請していません。
この回路を誰でも自由に利用出来ます。

 

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